2周年の今年は、去年に比べると、記念式典や関連イベントもやや控えめだったことは、前回お知らせしましたが、同じように、追悼の意味を込めた9/11関連アートの数も、かなり減ったようでした。それでも、いくつかが公開されていますので、それらをご紹介します。 まず、Hudson Riverに面した倉庫街Pier 94の展示会場には、United in Memory 9/11 Victims Memorial Quiltという、ボランティアの人々が作ったキルトが展示してありました。私は、ローカルニュースでこの展示があることを知り、見に出かけたのですが、Manhattanの西端という、交通の便が悪い場所であるにもかかわらず、巨大な会場には、家族連れなどが絶え間なく訪れていたので、皆、同じようにテレビで見て、実物を見たくなって訪れたのでしょう。 会場に入って、圧倒されたのは、広い壁を覆い尽くしたキルトの数。1片が18インチ(約45cm)のものを、縦横5枚ずつ、25枚つなぎ合わせた大判のキルトが142枚、つまり、3,550片ものキルトが一堂に展示されていたのでした。そして、その1片1片が、あのテロ事件で亡くなった人々、World Trade Centerだけでなく、同じく襲撃を受けたWashington D.C.のPentagon、さらに、襲撃に使用されてしまった飛行機に乗っていた人々ひとりひとりの思い出を縫い込めたものだったのです。遺族の方々から、写真を借りて、それを布にプリントしたり、生前に好きだったもの刺繍やボタンで作ったり、また、亡くなった人が愛用していたものや服のはぎれを使ったものもあるそうで、ボランティアの方々が作ったキルトは、1枚たりとも同じものはない、まさしく、1枚1枚が亡くなった人々の個性を表すオリジナルなのでした。
最初は、全体的にざっと見ていたのですが、そのうち、1枚1枚ちゃんと見出すと、それぞれに、生前の思い出や、家族からのメッセージが書かれていたりして、だんだん見るのが辛くなってしまいました・・・数百人が亡くなってしまったFDNY(Fire Department of New York City)の人のための消防士さんの絵が描かれたキルト(写真左上)は、やはり多かったですし、飛行機に乗っていて犠牲になってしまった日本の大学生の方のために、日本の方が作った折鶴のキルト(写真右上)にも目を引かれました。また、事故直後の悪環境の現場で、日夜遭難者の捜索にあたったことから、その小さな命を落としてしまったSiriusという捜索・救助犬のためのキルト(写真左下)や、犠牲者ではありませんが、事故後の見事な陣頭指揮で、一躍、New YorkerたちのヒーローとなったRudy Giuliani元市長のキルト(写真右下)などもありました。どれも、その人々の人となりを表しているようで、あの事件が、こんなにもたくさんの幸せに暮らしていた一般の人々の命を奪ったのかと思うと、あらためて、テロという無差別な攻撃行動に怒りを覚えました。 「United in Memory 9/11 Victims Memorial Quilt」のNew Yorkでの展示期間は、9月14日で終了してしまいましたが、別の場所での展示があるかもしれません。詳細は、http://www.unitedinmemory.netでチェックしてみてください。
もうひとつは、アッパーウエスト、American Museum of Natural History(アメリカ自然史博物館)の隣にある、New York Historical Society(New York歴史協会)のいくつかの関連展示。大きな建物のわりには、ひっそりと地味なこの博物館、表の垂れ幕にあるように、「First Museum in New York(New Yorkで最初のミュージアム)」なのだそうです。Central Parkに面しているので、建物の前を通ったことは何回もありましたが、実は、中に入ったのは、今回が初めてでした。訪れたのが平日だったからか、本当に空いていて、窓口のお姉さんに、「あなたたちが行きたいミュージアムは、ホントにここでいいのよね?」と念押しされていました。 写真展などが多い、1階のフロアに展示してあったのは、「Fathers and Childoren : Loss and Remembrance, September 11」という写真。現場に駆けつけた消防士さんが多数亡くなってしまったことは、上でも触れましたが、New Yorkでは、父親や祖父も消防士という、家系代々の男性が消防士という家が結構あります。そして、消防士の息子さんがテロ事件で行方不明になり、それを同じく消防士の父親が捜索するという、ちょっとやりきれない状況が多かったのも事実。そんな父親たちの悲しみをセピア色の写真が物語っていました。このコーナーの奥には、大工さんだっただんなさんを亡くしてしまった奥さんが子供たちと作った手作りの祭壇や、亡くなったメンテナンス作業員の制服なども、あわせて展示してありました。 2階の展示場にあったのは、今回、ここを訪れたいちばんのお目当てである「New York: In the Light of Memory」という作品。球形をしたガラスに、展望台があったWorld Trade Center Tower Tから見た夕暮れの風景を描いたものです。球の大きさは、思ったよりもずっと小さくて、直径が24インチ(約60cm)で、展示室中央の台の上に鎮座していました。まるで、写真のように見えますが、これは、精密に描かれた絵で、以前、展望台から撮った写真や周囲の風景を参考にして、描き上げたものだそうです。夕暮れ時のオレンジがかった色合いが、アンティークのような哀愁を帯びた雰囲気を出していて、今は亡きWTCの追悼にふさわしいイメージ。周囲をぐるりと歩いて周りながら、何回もじっくりと見てしまいました。 この他、4階のHenry Luce V Centerのガラスケースの中には、WTCの残骸の断片や、ほこりをかぶった土産物、現場にあった壊れた時計などの関連物も展示してあります。「Fathers and Childoren : Loss and Remembrance, September 11」は、9月30日迄、「New York: In the Light of Memory」は11月2日迄展示中。今現在、9/11関連の展示というのは、かなり少なくなっていますので、もし、ご興味ある方は、どうぞ。尚、9/11関連ではありませんが、ここの特別展でちょっと面白かったのが、都会に暮らすペットの写真や絵、グッズなどを展示した「Petropolis: A Social History of Urban Animal Companions」というコーナー。ワンちゃん、ネコちゃん好きにはおすすめの展示です。こちらも11月2日迄。New York Historical Societyの開館時間、場所等については、http://www.nyhistory.org/にて。 ↑先頭に戻る